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Vol.4:八代目尾上菊五郎襲名披露公演 6月昼の部の見どころ
2025.04.11

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着物を愛する貴女のための歌舞伎特別企画
八代目尾上菊五郎襲名披露公演

2025歌舞伎座『菅原伝授手習鑑 車引』梅王丸=尾上丑之助改め六代目尾上菊之助(撮影:岡本隆史)
こんにちは。八代目尾上菊五郎襲名披露公演応援アンバサダー君野倫子です。 5月に続いて、6月公演の昼・夜共に歌舞伎の代表的な演目がずらりと揃っているので、初めての方にも、5月公演を逃してしまった方にも、ぜひ足を運んでいただきたいです。
歌舞伎座は竜宮城のような場所。そこに一歩足を踏み入れたら別世界。あまり難しいことは考えず、筋書きはイヤホンガイドにお任せして、ぜひ日本人が長く受け継いできた美意識、様式美に浸ってください。
元禄花見踊(げんろくはなみおどり)
6月襲名披露公演の幕開けにふさわしい華やかな舞踊。江戸時代の元禄年間は江戸文化が華やかに花開いた時代。その元禄時代、上野の山に着飾った人々が満開の桜の下に集い、花見の宴が催され、人々が舞い踊ります。舞台上も衣裳も桜色に染まり、今も昔も変わらず、美しい桜にウキウキしてしまう日本人を感じられます。花見やお祭りや、歌舞伎には日本の風物詩が登場するところが私は大好きです。今年の桜を堪能した方も、見逃してしまった方も楽しんでください。<車引>
「車引」に登場する梅王丸・桜丸・松王丸の三つ子の大きな衣裳と隈取にご注目ください。 歌舞伎では、衣裳の文様や隈取の色などで、とてもわかりやすく役の性質や個性を表現することがあります。時にストレートに役名そのまんまの柄になっていることもあります。3人とも幅が10cmもある大きな童子格子と呼ばれる柄の、まるで布団を着ているような衣裳で登場します。そして、片肌脱ぐと鮮やかな緋色の襦袢。梅王丸には梅、桜丸には桜、松王丸には松の刺繍モチーフ。その一つ一つに綿を入れて縫い付けてあり、立体的な華やかさです。 「車引」は30分程度の演目ですが、梅王丸の元禄見得、松王丸の石投げの見得など、さまざまな見得を見ることができます。見得は現代で言うクローズアップ、感情の高まりや見せ場を一瞬のポーズで表現したものです。 今回は六代目尾上菊之助が梅王丸を演じます。梅王丸が大きな衣裳を着て、花道を引っ込む時の迫力ある飛び六方も見逃せません。
<寺子屋>
こちらも歌舞伎では有名な演目「寺子屋」。今回は八代目尾上菊五郎が松王丸を演じます。内容は重く苦しい物語ですが、まず見ていただきたいのは美しい職人技が光る松王丸の「雪持ちの松」が見事な刺繍で描かれた衣裳。通常、成田屋系は黒地、音羽屋系は銀鼠とされていますので、おそらく八代目菊五郎は銀鼠の衣裳で登場されると思います。この場面は春ですが、松王丸の板挟みになった気持ち、子を想う気持ち、じっと耐え抜く決意として、松王丸の「松」に「雪持」が描かれているのです。刺繍だけでも1年以上かかるそうです。本物を生で見られるところが歌舞伎の素晴らしいところ。ぜひ、じっくりとご覧ください。

2025歌舞伎座『菅原伝授手習鑑 寺子屋』松王丸=尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎(撮影:岡本隆史)
そして、渋くて私のお気に入りは、寺子屋の主人・武部源蔵の女房・戸浪の衣裳。「石持(こくもち)」の栗梅色の地味な無地に黒襟をかけ、黒繻子の帯に白い手拭いを挟んでいます。歌舞伎では「世話女房」の典型的な衣裳です。石持は家紋が入る部分を白く丸に染め抜いた衣裳のことを言います。初めて見た時は、なぜ家紋がない?と思いましたが、公家や武家、裕福な町人は家紋を持ちますが、家紋がないことで身分の低さを表し、家柄の低い武士の女房、田舎娘などの役に用いられます。丸い家紋、ご注目を。
お祭り
「お祭り」は『再茲歌舞伎花轢』(またここにかぶきのはなだし)という舞踊劇の一場面。赤坂、日枝神社の祭礼「江戸山王祭」が舞台です。「お祭り」の登場人物は公演によっていろいろなパターンがありますが、現在のところ、鳶頭と芸者を片岡仁左衛門と片岡孝太郎の親子共演が発表されています。
とにかく、江戸時代のイケメン代表、鳶頭の粋な風情に見惚れてください。私が以前、観た芸者は、黒の着物に白の献上帯、赤の帯揚げ。衿合わせ、衿の出し具合、帯のずらし方、芸者独特の着付けは最高にカッコよかったです。今回の襲名披露公演では、どんな「お祭り」になるのか、楽しみです!
そして、「お祭り」と言えば、大向こうの「待ってました!」の掛け声、それに鳶頭が「待っていたとはありがてぇ」と返します。大向こうとは、3階席あたりから役者の登場や見得をする絶妙なタイミングで声をかける方たちのこと。このかけ声がこの演目の命のようなものなので、流儀をわきまえた大向こうの会に属された方が声をかけられると思います。そのやり取りも歌舞伎ならではなので、楽しみにしてください。
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一人で行くのは心細いと言う方に朗報です!
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*都粋3店舗合同観劇プラン(6月22日(日)夜の部・限定50名)
*まるやま合同観劇プラン(6月25日(水)夜の部・限定50名)
*京彩合同観劇プラン(6月8日(日)、6月11日(水) 昼の部・限定各25名)
*たんす屋合同観劇プラン(6月22日(日) 、6月27日(金) 昼の部・限定各日25名)
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次回予告
さて、次回は6月の襲名披露公演・夜の部の演目の見どころ、着物好きな貴方に見ていただきたいポイントをお伝えします。どうぞお楽しみに。君野倫子プロフィール

文筆家・日本文化ディレクター。2004年より着物や和をテーマに書籍、新聞、雑誌の執筆を始める。2010年から14年間、読売新聞夕刊で伝統工芸を紹介する連載を続ける。着物、手ぬぐい、歌舞伎、和雑貨などをテーマに日本文化に関する著書は20冊。日英版・日仏版に加え、海外の出版社からも出版された著書もある。2025年には新たに日本とロンドンの出版社からも出版予定。執筆以外にも、商品企画・イベント企画・デイレクションなども手がける。
以下、いずれも君野倫子著・市川染五郎(現・十代目松本幸四郎)監修
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